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もう今年も終わりですね。
今年も『帝都を歩く』に来訪いただきありがとうございます。
来年も少しずつですが更新していきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
今回は、埼玉県川口市金山町にある「旧鋳物問屋鍋平別邸」をご紹介します。
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現在地は川口市本町一丁目付近です。
本町という名前が示すとおり、かつてこの辺りは川口の中心地でした。
江戸時代、日光御成街道の川口宿として栄えた川口ですが、その宿場の発祥・中心はこの本町一丁目であったと言われています。
しかしながら、京浜東北線が開通し川口駅ができたことにより、繁栄の中心が川口駅に近い本町四丁目や栄町三丁目に移りました。
それによって、開発の手が及ばなくなった現在の本町一丁目周辺には、過去の繁栄を思わせる邸宅や商店が残されています。
写真は営業中の、銅板で装飾された看板建築の福田屋洋品店。
帝都では「江戸東京たてもの園」で見られるレベルの歴史的建造物が、ここ本町一丁目では普通に現役です。
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そんな看板建築の福田屋洋品店から西に200メートルほどの場所。
川口市金山町という閑静な住宅街が広がっています。
この辺りは川口市の中でも少し由緒あるエリアなのか、古いけれど大きな家が多いです。
上写真は金山町で見つけた歴史のありそうな大きな邸宅。
しかしよく見るとすでに廃墟化しており、解体工事待ちでした。
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川口駅からそれほど離れていないにもかかわらず落ち着いた住宅街であり、川口の中でも地価の高い地域なんだろうなと思わせますが、そこはやはりどこに行こうと鋳物の街川口。
このあたりは「準工業地域」でありかつ「特別工業地域」とのことで、多少の塵埃、騒音等は免れないらしい。
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そんな金山町の一角に、日本家屋と西洋の建物をくっつけて造られたような、木造2階建ての歴史のありそうな建物があります。
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こちらは、かつて川口の鋳物問屋であった「鍋平」の別邸として、鍋平4代目嶋崎平五郎が明治45年ころに建築した『旧鋳物問屋鍋平別邸』。
西洋文化の風情を取り入れて建築された建物で、これも明治~昭和初期に流行したという洋風古典建築の一種と思われます。
主屋・離れ・蔵の三棟からなっており、今では手に入りにくい材料で建築されていることから「再現することが容易でない建造物」として国の登録有形文化財に指定されています。 
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なお旧鍋平邸は、普段は川口市母子・父子福祉センターとして活用されています。
よって、見学は電話による事前連絡(048-223-7655)と社会福祉事業団の許可が必要になります。
旧鍋平邸が川口市母子センター(当時は「父子」はなかった)になったのは昭和59年のこと。
この際、子供が利用するということで旧鍋平邸は改築され、床板や壁紙なんかが張り替えられたそうです。
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明治45年ごろ建築されたという和風建築の主屋の座敷。
床、棚、書院を備え、亀甲模様の書院窓や透彫欄間など、数寄屋風の凝った意匠で飾られています。
こちらは創建当初とあまり変わっていないとのこと。
明治時代にこれほどのものを造れることに、いかに嶋崎家(鍋平)が隆盛をきわめたかが見えます。
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主屋の東側は、昭和14年に増築された平屋建寄棟造りの離れになっています。
途中で床板の向きが変わっているところが主屋と離れの境界です。
正面奥の壁にはタペストリーがかかっています。
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このタペストリーは明治時代の鋳物製造の様子が描かれたもの。
当時、この川口で製造された鋳物は、日本橋まで行って卸売されたという。
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廊下の左手には洋式の洗面所とトイレがあります。
鏡(割れている)のはまったモザイクタイルや、ヴェネチアガラスでできたステンドグラスなど、洋風の華麗な装飾が施されています。
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こちらは男子トイレ(小のみ)のステンドグラス。
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女子トイレのステンドグラス。
女子と男子で窓ガラスが違う。
もっともここが鍋平邸として使われていた時は、男子も女子もなく単に「小」と「大」が別の個室になっていただけですが。
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洋式便所の南側にある離れの座敷。
10畳の座敷で、左手には床、棚、書院を備えています。
天井は屋久杉、左手の黒い柱はインドから取り寄せたという黒檀(コクタン)などを多用した贅沢な造りとなっています。
「材料が手に入らない」というのはこのあたりからきているのではないでしょうか。
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奥の棚には高価そうな照明が置かれています。
今の離れの照明は後付けのもので、もともとはこの照明がかかっていたそうです。
しかし、子供が利用するこの母子父子センター、落下の危険があるこの重い照明は取り外されてしまったとのこと。
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玄関から外に出ます。
主屋北西には、昭和2年ごろに増築されたという土蔵があります。
内部は二層になっており、外観は石造風。
現在は母子父子福祉センターのイベントなどで使う小道具の倉庫になっているらしいです。
開けてみてもいいそうですが、閂がものすごく固くて開けらけませんでした。
こんなに固くて中の道具を取り出せられるんでしょうか。
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土蔵の外壁には例によって折れ釘がついています。
蔵には必需品ですね。
蔵を見学する我々を、こっそりと三毛猫が覗いています。
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この旧鍋平邸の周囲を、主庭・側庭・前庭の三つからなる日本庭園が囲んでいます。
昭和16年ころに完成したという池泉回遊式の日本庭園で、前庭から園内を回遊できる形式の庭園になっています。
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ちょっと変わっているのが、前庭から主庭に行く園路。
この主屋~離れをつなぐ通路の下を、
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くぐっていく形式になっています。
小さな池の中の石橋を渡っていく園路です。
ただし大雨が降ったりすると、水で通れなくなることもあるらしいです。
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主庭は、主屋の前にクロボク(溶岩)を多用した築山と庭池があり、それをぐるっと回るように歩いていけるようになっています。
今は水は流れていませんが、現役当時は側庭に設けられた石組みの滝の水が、離れ座敷の床下を流下して主庭の東に設けられた池(現在は芝生)を経由して中央の庭池に入る趣向になっていたという。
こうしたクロボク石積みが主景となり水を流す庭の構成は、昭和戦前期の東京下町の神社仏閣や料亭、銭湯、個人住宅などの庭園に多く取り入れられ、面積の小さな庭を立体的な石組みと流れ落ちる水によりダイナミックに表現する手法として流行したとのこと。
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川口の鋳物問屋、鍋屋嶋崎平五郎商店(略して鍋平)の隆盛を今に伝える旧鋳物問屋鍋平別邸。
鍋屋平五郎は、川口の鋳物産業の草分け的存在であったという。
その平五郎が建てたこの別邸は、川口の鋳物産業の歴史を知る上で、重要な歴史的建造物と言えます。
制限があるとはいえ見学しやすい施設ですので、見学に行ってみてはいかがでしょうか。 
(訪問月2015年12月)