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品川区荏原にある大学、星薬科大学の薬用植物園を歩いてきました。
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現在地は東急目黒線武蔵小山駅から徒歩12、3分の市街地に位置する星薬科大学の正門前です。
星薬科大学は、太平洋戦争が開戦となった年の昭和16(1941)年に星薬学専門学校として設立された大学です。
一般人も大学構内に入ることができ、門の先にある守衛室で入構目的を言い入構証を貰って入る形式です。
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星薬科大学の創立者は、明治から昭和初期にかけて医薬品の国産化に尽力し「東洋の製薬王」と呼ばれた星一です。
キナやコカといった薬用植物を南米ペルーや当時大日本帝国領であった台湾で栽培化し、モルヒネ、キニーネ、コカインなど重要な医薬品を初めて国産化しました。
星一の胸像の後ろにある星薬科大学本館は大正13(1924)年に建てられた近代建築で、星が若いころ学んだ米国コロンビア大学のロー・ホールをモデルにしたものだそうです。
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本館に向かって左手にある新星館の一階にある学食「ステラ」で食事を摂りました。
大学生協のため、前日に訪問した東京農業大学の学食「カフェテリアグリーン」とほぼ同じラインナップ。
ちなみに「ステラ」はラテン語やイタリア語で「星」を意味します。
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学食「ステラ」で昼食を摂った後、本館前にある薬用植物園を見学してきました。
園内は水生植物園、標本園、野草園、温室などがあり、民間薬や漢方薬、医薬品の原料となる重要な植物を見学することができます。
中には有毒植物も栽培されていて、毒草だって使い方を誤らなければ有用な薬になるということを教えてくれる植物園です。
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植物園入り口近くには、強い心臓毒をもつ有毒植物、ゴマノハグサ科のジギタリスが植えられていました。
ジギタリスはジギトキシン、ジギタリンといった心臓に作用する成分を持ち、イギリスなどで長く心臓病の薬として利用されてきた歴史があります。
しかし効能がうまく働けば薬になるものの、強く働きすぎると異常な不整脈を起こして死を招きかねない危険な薬草で、これによって逆に寿命を縮めた人も多かったといいます。
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一度にたくさん摂取すると嘔吐、神経障害を起こす毒成分ツヨンを含むキク科のニガヨモギ。
19世紀末、ニガヨモギを主原料とした「アブサン」というアルコール分90度のリキュールがスイス、フランスなどヨーロッパでつくられました。
ニガヨモギの毒成分ツヨンとアルコールが強い幻覚や向精神作用をひき起こし、これによってアブサンは「緑の魔酒」と呼ばれ、画家のロートレックやゴッホはアブサン中毒で身を滅ぼしたと言われています。
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イタリア語で「美しい貴婦人」を意味する毒草、ナス科のベラドンナ。
この草に含まれる成分「アトロピン」は瞳孔を大きく開かせる効力があり、かつて、目を大きくして美しくなりたい女性がベラドンナの汁を点眼したという。
しかしアトロピンは命にかかわる猛毒で、点眼した多くの女性が美と引き替えに命を落とす結果となってしまったそうです。
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普通にそのへんに生えていそうな、「幸福の再来」が花言葉のユリ科ドイツスズラン。
しかしスズランの毒は心臓毒で、ジギタリスの心臓毒と似ていますが、違いの一つにスズランの主成分であるコンバラトキシンは水に溶けやすいという性質があります。
そのためスズランを活けた水を飲んでも中毒を起こすことがあり、これを子供が誤飲して死亡した例があるなど小さな子持ち親にとっては恐ろしい植物です。
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ビニールハウスの近くには丈夫で枯れにくいため、高速道路や街路樹などでよく見かけるキョウチクトウ科のキョウチクトウ(夾竹桃)が植えられていました。
その毒は強心配糖体という心臓に作用する猛毒で、葉、花、枝、茎など植物のあらゆる部分に含まれており、燃やして灰や煙になっても毒性は残り続けるので、火災で燃えた際に毒ガスが発生するという非常に恐ろしい植物です。
ちなみに太平洋戦争当時、日本軍の将兵は丈夫なキョウチクトウの枝を箸や串代わりにして食事を摂ってしまい、うっかり多くの兵が染み出したキョウチクトウの毒にやられてしまったという。
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そして毒草の代名詞として有名なトリカブトの一種、全草に強い有毒成分を持つキンポウゲ科ハナトリカブト。
人を死に至らしめる猛毒をもち、推理小説や漫画、ドラマなどで定番アイテムであるトリカブトですが、こんな、誰でも入って取れるようなところに栽培させておいていいんでしょうか。
誰かがこっそり殺人目的で何枚か葉っぱを持っていっても、誰も気づかないんじゃないかと思うような場所にあるんですが…
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その他に毒草扱いにはなっていませんでしたが、植物園には漢方薬の生薬として知られるマオウ属のマオウ(麻黄)も植えられていました。
マオウの写真を撮り忘れてしまいましたが、「エフェドリン」成分をもつマオウは第二次世界大戦期、大日本帝国が日本軍将兵の疲労感や恐怖心を手っ取り早く取り除くために作った覚醒剤「ヒロポン」の元になった薬草でした。
そんな毒草・薬草のもつ歴史を考えながら、薬用植物園を見て回るのも面白いかもしれません。
(訪問月2019年5月)