BlogPaint
千葉県南房総市富浦町多田良の軍事遺跡、大房岬砲台跡を歩いてきました。
BlogPaint
幼稚園が夏休み中の子供たちを連れて、南房総市の大房岬自然公園にやってきました。
浦賀水道に突き出す大房岬に作られた大房岬自然公園は、自然が豊富でハイキングや磯遊びなど子供達に貴重な自然体験を提供してくれる広大な公園です。
夏に訪問したため公園には虫が多く、典型的な都会っ子で虫がとても苦手な我が家の子供たちはあちこちで「虫、虫!」と騒いでいました。
IMG_0864
大房岬は東京湾の房総半島側入り口に位置することから、黒船来襲の時代から太平洋戦争の敗戦に至るまで砲台を備えた東京湾防衛の砦として使用されていました。
今でも大房岬自然公園には大日本帝国陸軍が昭和3(1928)年に起工し、昭和7(1932)年に竣工した東京湾要塞・大房岬砲台の軍事遺跡が残っています。
大房岬の北側に建つ第1展望台の形は、かつてこの場所に配備されていた第1砲台の形を模して造られたものだそうです。
IMG_0863
第1展望台の近くには、生い茂る樹間から分厚いコンクリートの円形構造物が顔を覗かせています。
これはかつて存在した大房岬第1砲台の地下砲側弾薬庫跡で、ここには第1砲塔から発射する完成弾丸と発射装置が収められていました。
地下砲測弾薬庫はその上にカモフラージュの植樹が施され、敵の航空機から見えないように工夫がされていたようです。
IMG_0861
大房岬砲台には、ワシントン海軍軍縮条約(1922)の締結により廃棄処分されることになった巡洋戦艦「鞍馬」もしくは「伊吹」の45口径20センチカノン砲2門入りの砲塔を手動式に改造したものが岬の先端部に2基(4門)配備されていました。
写真は配備された2基の砲塔砲台のうち、現在も残っている第2砲台跡です。
こちらは現在は、砲台部分をレンガで囲んだ花壇として再利用されています。
IMG_0858
第2砲台跡の直近にも、植樹され盛り土された地下砲側弾薬庫も残存しています。
地下通路は通り抜けできるようになっていて、左手には弾薬庫が二つ並んでいます。
しかし前日に大雨が降って地下通路が泥濘となっていたため、中に入るのは断念しました。
IMG_0865
第2砲台跡から園路を南へ歩いていき、公園の中心付近にある大房岬ビジターセンターまでやってきました。
大房岬ビジターセンターの真横にも、大房岬砲台の軍事遺跡「第1探照燈掩灯所跡」が残存しています。
探照燈掩灯所とは、夜間に東京湾へ侵入してくる敵艦を照らす探照灯(サーチライト)を格納し、敵の攻撃から守るところです。
IMG_0866
第1探照燈掩灯所には、ここより西の海べりにあった第1探照燈照座に設置する探照灯が格納され、有事の際にそこまで運搬されることになっていました。
今は物置となっているようですが、ここには直径2m、約9000mの射程をもつ当時最新鋭の探照灯があったそうです。
ここから探照灯を台車に乗せて軌条上を運搬し、第1探照燈照座に設置して使用されることになっていたという。
IMG_0867
第1探照燈掩灯所の向かい側にも、同じく物置となっている軍事遺跡的な建造物がありました。
こちらはよくわかりませんが、掩灯所に近いことから探照灯関係の倉庫だったと思われます。
IMG_0884
第1探照燈掩灯所の背部に当たる谷の下には、鉄筋コンクリート造の発電所跡も残存しています。
発電所は探照灯用として、50馬力27キロワットのディーゼル発電機2機が設置されていました。
危険のためか、この軍事遺跡は入れないように入り口がコンクリートで固められています。
IMG_0874
最後は、岬内で残存するもっとも大型の軍事遺跡である第2探照燈掩灯壕です。
この遺跡は探照灯の格納庫と思われ、中は20畳ほどのがらんとしたスペースになっています。
湿気対策でしょうか、そのスペースを囲むように弾薬庫によく見られるコの字型の通路が設けられており、ぐるりと周回できるようになっていました。
IMG_0871
格納庫の向かい側には、岩盤をくり抜いて厚さ2mをこえるコンクリートで造られたという地下通路の入り口があります。
この地下通路の先には、探照灯をエレベーターに載せて昇降する照明座があります。
敵艦が迫ってきた有事の際には、巨大な探照灯がこの通路を通って搬送され、エレベーターで小山の上に上げられる仕組みになっていたようです。
IMG_0872
搬送しやすさを考慮してか地下通路は緩やかな下りになっていて、加えて水浸しになっているため一度スピードが出てしまうとそのまま下まで滑り落ちてしまいそうな感じになっています。
この地下通路にも探照灯運搬のための軌条が敷かれていたものと思われますが、それらしき痕跡は見当たりません。
ただ天井には、発電所へと繋がっていただろうと思われる電気配線の痕が残っています。
IMG_0879
なんとか滑らずに地下通路を下りきると、探照灯を昇降するエレベーターがあったという場所に出ました。
しかし前日の大雨のせいか排水がうまくいってないのか、エレベーターがあったと思われる場所は完全に水没していました。
水溜まりから立ち上がっている木が、マングローブ林のようでいい感じです。
IMG_0880
水溜まりから顔を上げるとそこには、役目を終えて約75年が経つ軍事遺跡が静かに待っていました。
上部にぽっかりと開いた四角い空間から夏の陽の光が差し込んできて輝いているように見え、古代の神殿のような威容を放っています。
幻想的な輝きと静寂の世界に、思わず時間を忘れてその場に佇んでしまいました。
圧倒的な存在感を放ちながら、時の流れに取り残されたようなこの静けさに、軍事遺跡を巡る醍醐味はあるのかもしれない。
(訪問月2020年7月)